【推しの一杯ができるまで③】『ら~めんみすゞ 』転機を生み出した「こだわり」

編集部のラーメン好きが、自分の推しの一杯をご紹介。推しをこの世に生み出した、至高の職人たちに会いに行く。

第3回目、編集部Tが紹介するのは『ら~めんみすゞ』のこだわりみすゞ。

人生の転機が訪れた時、人はどのような道を選択するのか。その悩みに明確な答えを出してくれるものさえあれば…。『ら~めんみすゞ』のこだわりみすゞは、創業36年の老舗に答えを出し続けるメニューだ。

転機を生み出した「こだわり」

この企画で真っ先に思い浮かんだ「こだわりみすゞ」。私の人生の大切な転機には、いつもこのメニューがあった。これを食べると身も心も温かくなり、悩んでいる自分を励ましてくれるのだ。その秘密に迫ってみよう。

帯広の街中にラーメン店がひしめいていた1986年。入店とともにおしぼりと氷の入った冷たい水を出し、丼ぶりの下には皿を置くという、まるでおしゃれなカフェのような新しいスタイルでラーメンを提供する店が広小路商店街に誕生した。ら~めんみすゞだ。

厳選素材で丁寧に出汁を取った澄んだスープが自慢の「ら~めん」を作り上げた創業者川口裕さんは、その味とサービスに自信を持って500円の値をつけた。当時のラーメン一杯の相場は450円ほど。なかなかの大勝負だ。

しかし、おしゃれが故の入り辛さ、新規参入の難しさもあり、思うように客は入らなかった。脱サラして飛び込んだ大好きなラーメンの世界で悪戦苦闘すること2年。とある映画にインスパイアされた新メニューが苦境を救うことになる。

それまでの基本メニュー「ら~めん」にオイスターソースとピリ辛に味付けしたネギを乗せた「みすゞら~めん」だ。中華の技法で絶妙な味付けを施されたネギを乗せることで豊かな風味とコクがプラスされた。

この新メニューで他店との差別化に成功したみすゞには常連が付き、入りづらいと言われた店構えやサービスも次第にみすゞの個性として好意的に受け入れられるようになった。最初の転機が訪れたのだ。

常連がつくということは思わぬ化学反応が生まれるものだ。当時みすゞではコーン、バター、白髪ネギ、海苔といったさまざまなトッピングメニューを始めた。その中で豚肩ロースを使用したチャーシューとやわらかく味が染みたメンマの2品を「みすゞら~めん」に追加する常連が多いことに気付く。

そこで、常連こだわりの2品を乗せた「みすゞら~めん」をメニュー化することを思いついた。それが「こだわりみすゞ」。メニュー名の「こだわり」は、店主ではなく常連客のもの。これがみすゞに最大の転機をもたらすことになる。

2004年、札幌にラーメンのテーマパーク「札幌ら~めん共和国」が開業。そのオープニングメンバーとしてみすゞが出店し、現代表取締役で創業者の長男、川口禎一さんが若くして札幌の新店を任されることとなった。連日の大行列、息つく暇もない忙しさの中で「毎日が手探りだった」と禎一さんは振り返る。

札幌でも注文の多くは「こだわりみすゞ」。ラーメンファンによる投票によって、味、美しさ、接客などを評価される各賞を初年度にすべて受賞した。「こだわりみすゞ」があったから、ラーメンの本場の札幌でも勝負ができたのだ。札幌出店から2年後には福岡に進出。博多ラーメンの街でも「こだわりみすゞ」は受け入れられた。

またある日、本州のデパートの物産展の話が飛び込んできた。デパート担当者は「こだわりみすゞ」狙い撃ちで出店を依頼。悩みながらも出店を決意し、いざ東京に乗り込んだ。「こだわりみすゞ」一本でいくというデパート担当者の読みは見事に当たり、多い日は一日に1000食近くを提供する人気を博したのだ。

悩んだときに挑戦することを選択させてくれる「こだわりみすゞ」の中に詰まった人生の壮大なドラマを感じずにはいられない。

とは言っても、ドラマだけで常連が常連で居続けるほどラーメン店は甘くない。みすゞが人々に愛される店であること。それは、誰にでもどこまでも優しい接客があるから。ここは家族で切り盛りするお店。「長く働けるのが身内の強み。いつも変わらない人が出迎えることで安心感を持ってもらえる」と禎一さん。

何年たっても覚えている本当のおいしさと、川口家の温かな人情、それが私にとっての安心感だ。しゅんが転機を迎えた今号でこのメニューに再会できたことに感謝したい。

しゅん編集部T 推しの一杯「こだわりみすゞ」(820円)

味玉付きは+100円。

とんこつ、魚介、野菜などの選び抜かれた食材から約10時間かけて作るスープ。深みを追求した醤油ダレ。中太でほど良い縮れの麺。オイスターソースの旨みをまとったピリ辛ネギにやわらかなチャーシューと歯ごたえ豊かなメンマ。ラーメンに欠かせない要素が凝縮された鉄壁の一品。

  • しゅん編集部TのProfile
    帯広に生まれほぼ半世紀。胃腸の衰えは否めないながらも十勝のみならず全国各地の飲食店に多数出没。好きな食べ物は「酒の肴」。

らーめん みすゞ
電話番号 0155-23-4706
住所 帯広市西2条南8丁目20 広小路内
営業時間 11:00~19:30(現在短縮営業)
定休日 水曜