第6回目対談相手は「遊方屋」の代表で、ナイトツアーやノルディックウォークなどのプライベートツアーを行う鞘野紳量(さやのしんりょう)さんです。実際に芽室町の夜道を歩き、小動物の鳴き声に耳を澄ませ夜空に浮かぶ綺麗な星を解説していただきました。そのあとはお家に招いていただき、和やかな空間でガイドへの想いを伺いました。(聞き手:クナウパブリッシング石崎)
今回、初めて鞘野さんのツアーに参加してとても楽しかったです。ガイドを始めてどのくらいになるんですか?
なんだかんだで30年になります。こんなに長くこの仕事に携われるとは思っていませんでした。僕のガイド人生のスタートは然別湖ネイチャーセンター。26歳になる頃、周りと比べて僕自身の「これだ」というものはなんだろうと悩んでいました。もう辞めようと思っていた時、写真家の星野道夫さんの仕事に行かないかとオファーがあり一緒にアラスカへ行くことになりました。日本人の子どもたちをアラスカの氷河でキャンプさせるツアーで、リーダーの星野さんをサポートするという仕事でした。これが最後の仕事かもしれないと思って、ツアーの終わりに子どもたちを集めて空を眺めながら星座の話をしたんです。そうしたら星野さんが「ナイトツアー、すごくいいね」と褒めてくれたんです。星野さんに褒めてもらえるなんて嬉しくて、もう少し頑張ってみようという思いで帰国しました。勉強していくうちに、僕にとっての得意分野は「星」なんじゃないかと気づきました。派手さはないけれど、星の綺麗さを一緒に共有する楽しさが僕にとって大事にしたいことだと気づいた瞬間でした。
そうだったんですね。ちなみに、どんなことがきっかけで星に興味を持ったんですか?
幼い頃から星に興味があり「今日は○○流星群がよく見えます」とニュースがあると、一人で自転車を走らせて見に行っていました。そのときの僕は病弱で暗い少年だったんです。こういう言い方をするとロマンチックですけど、星が唯一友達だったように感じていました。物理的に距離はあるけれど、一対一で向き合っているような感覚が好きでしたね。
鞘野さんにとって、ナイトツアーはどんな存在なのですか?
日常生活の中で「怖い」という感情を抱くことって、めったにないと思うんです。背筋がピリッとする感覚。自然の中を歩いていると、暗闇で小さな動物が歩くガサガサッという音にもびっくりする。小動物にこんなにドキドキするなんて、気の小さい自分だなと気づきます。毎晩歩いているのですが、雷が鳴っている夜は早く帰りたい気持ちをグッと抑えて歩いています。周りが暗い分雷の光が強いし、真上でゴロゴロ鳴っているんじゃないかと思うくらいものすごい音を感じる。自然の脅威を前にすると、日頃の行いを良くして生活しなきゃなと思っちゃうんですよね。雷が落ちてきたら日頃の行いが良くなかったか、みたいなね。生活に刺激があって、自分自身が「生きている」と実感できます。
確かに街の中だけで生きていると、感じにくい感覚ですね。鞘野さんとは今までも何度かお話しさせていただいていましたが、ツアーに参加するのは初めてでした。鞘野さんの感受性の豊かさ、物事に対する感覚の鋭い方なんだと実感しました。そんな鞘野さんに惹かれて、ツアーに参加される方が多いのですね。
ありがとうございます。その言葉がとても嬉しいです。せっかく覚えた知識も持っているだけではだめだと思うんです。ガイドをする一番の前提として、いかにお客さんに楽しんでもらえるよう気持ちを汲み取るか、ということだと思っています。
相手の気持ちを感じる感受性が、ガイドの一番根幹の部分で一番大事なスキルだと思っています。
ナイトツアーの醍醐味はやはり、外の暗さ。今は夜になっても明るい場所が多いですよね。日中は太陽の光はもちろん、スマートフォンやパソコンのブルーライトなど強い光に晒され続けています。そのため暗闇の中にあるわずかな光に対応できなくなってしまっているんです。だからアクティビティのひとつとして、こんな風に夜に自然を感じながら歩くと暗闇もどんどん心地良くなっていきます。
僕、昼よりも夜に歩く方が好きかもしれないと気づきました。
それは良かった!確かに工藤さんと夜は親和性があると感じました。人によっては暗いところを歩くと不安な気持ちになる人もいるんですが、終始落ち着いていましたね。
割と夜行性だからですかね?本当に楽しかったです。暗くて先が見えないのが、この先に何があるんだろうというワクワク感につながって。近くにガイドとして鞘野さんがいてくれたからさらに安心して楽しめました。
ガイドは案内するのが大切な役割の一つですが、お客さんの「ここ行ってみたい!」という積極性を受け入れて一緒に楽しむということを心がけていきたいと最近思うようになりました。このツアーに参加してくれたみなさんが「今度夜歩いてみない?」とお友達を誘ってその輪を広げてもらったら、ぐっと面白くなると思います。
お客さんの積極性を受け入れるということの一つで、今日ツアーに参加してもらったとき星空や外の風景を写真に残す面白さを学びました。スマートフォンのカメラで夜の面白い写真を撮ってみようみたいなツアーもできたら楽しそうだなと!
外が暗いから綺麗に撮れないんじゃないかって思ってましたけど、全然そんなことなかったですね。現代の技術も駆使して楽しみたいです。ガイドに興味を持つ方々にどんなことを伝えたいですか?
今日はツアー中に運良く綺麗な流れ星を見ることができましたが、そういった出来事って事あるごとに「あのとき見たな、綺麗だったな」と思い出すと思うんです。また、自然の美しさや怖さを知っているのと知らないのとだと、人生において大きな差があると僕は思っています。生きていく上でくじけそうになった時、それらが自分自身を支えてくれると思います。僕自身ももうダメかもと思ったとき、アラスカでの楽しい思い出や綺麗な景色に感動したことを思い出して支えてもらっています。なので、もっと美しい景色を貪欲に、たくさん見てほしいと思います。写真映えとかスマホ上の煌びやかな美しさだけじゃなくてね。わざわざ遠くに行かなくても、近所の公園や自分の家の裏庭など小さな足元の自然に対して目を向けてほしい。後々にそれが思わぬ形で力になって自分を支えてくれます。そのひとつの入り口として、ガイドがいるといいなと思っています。
最後に、鞘野さんはAT(アドベンチャートラベル)についてどうお考えですか?
以前からATの取り組みについて情報は入れています。面白い取り組みだと思っていますが、同時に今から新しくATを取り入れていろいろと変えていくことはないかなと思っています。これからどんどん新しいガイドさんたちが増えていき、若い人たちの感性で切り拓いていくのを僕なりに背中を押していきたいですね。
鞘野さんのガイドで夜道を歩いていると、ふいに大きな流れ星が降ってきました。その場にいる全員が「あ!」と気づき、しばし流れ星を見たことの興奮で大盛り上がり。辺りが暗くキリッとした寒さの中ひたすら歩いていると、頭の中がすっとクリアになっていく感覚がありました。「忙しなく働く日々にたまには静寂も必要だよ」という鞘野さんの言葉がとても心に残っています。
鞘野さん(遊方屋)のナイトツアーに興味がある方は、090-2075-8903までご連絡ください。
【HP】https://asobo-ya.com/
工藤さんが勤務するデスティネーション十勝では、十勝でガイド業にチャレンジしたい方を募集中!
なんとなく興味を持っているという方も歓迎です。
募集期限:2025年2月28日(金)まで
問い合わせはこちら jimukyoku.dt★gmail.com(★を@に変更して送信してください。)
担当:工藤
アドベンチャートラベルとは「アクティビティ」「自然」「異文化体験」の3つの要素のうち2つ以上を組み合わせた旅行形態のこと。本質的にはアクティビティを通じて自然体験や異文化体験を行い、地域の人々との触れ合いを楽しみながら、その土地の自然と文化をより深く知ることで自分の内面が変わっていくような旅行体験のことを指します。アドベンチャートラベラーが満足するツアーを提供するためには、地域を案内するガイドの存在が必要不可欠なのです。