十勝で活躍するガイドさんと対談する企画、第2回目は然別湖ネイチャーセンターでガイドを務める石川昇司さんが登場。自然ガイドとして30年以上の経歴を持つ石川さんと然別湖をシーカヤックで横断、幻の湖と呼ばれる東雲湖までのトレッキングに挑戦しました。然別湖周辺の生態系など、スポットごとの見どころを丁寧に教えてもらいながらのトレッキングは、普段より数十倍も充実した時間になりました。そんな石川さんのガイドとしての志に工藤さんが迫ります。(聞き手:クナウパブリッシング大西)
今日の東雲湖までのカヤックとトレッキング、初めてだったんですが特別感があってよかったです。特にトレッキングはガイドを受けながら歩くと全然見え方が違って、ガイドさんの存在って貴重だなと思いました。
東雲湖は然別湖周辺とはまた植生も違って雰囲気も違いますしね。でもナキウサギが見られなかったのは残念でした。いる場所は特定されているのですが、こればかりは向こうの気分次第ですね。
僕は天候には恵まれる方なんですが、生き物との遭遇だけはあまり縁がなくて見られないことが多いんです。
ポイントさえ掴めばそんなことないはずなので、諦めずにぜひ。
ありがとうございます。改めて、然別湖ネイチャーセンターではどんなアクティビティが人気なのでしょうか?
気軽に参加できるカナディアンカヌーやカヤックなどは、一番然別湖らしいアクティビティです。カヌーは朝6時からスタートしているのですが、特に風のない朝方、凪の時間は湖面すべてが鏡のようになって見えることもあります。寒くなってきた今時期だと気嵐が立つこともありますね。
来る時期や日によっても景色が変わるんですね。
秋のおすすめは、然別湖の固有種であるミヤベイワナが川を遡上しているのを観察する森と水辺のガイドウォークです。川まで歩いて箱メガネで観察したり、ドライスーツを着てシュノーケルをつけ、川に浮かびながら見たりします。本当に間近で見られますよ。
これだけ自然豊かで、季節によって見られるものが違うとリピーターも多いんじゃないですか?
常連さんも多いです。中でもリピートは冬が多いですね。僕地元が上士幌なのですが、地元の人は寒いと外に出ないじゃないですか。でも冬は本当に綺麗で、森全部が霧氷に覆われたり、ダイヤモンドダストを見られたり、最近はシャボン玉を凍らせて写真撮って楽しんでいる人がいたり。こんなことができる場所ってここくらいなのではと。
地元の人ほど魅力を感じきれていないというのは、そうなのかもしれませんね。先日沖縄県の八重山エリア(石垣島、西表島など)に行ってきましたがそこでも地元の人は海に入らないって言ってました。でも旅行で訪ねるのにおすすめの季節はいつがいい?って聞くとやっぱり夏だって言ってました。
そうなんですね。それを言うなら北海道はやっぱり冬なんでしょうね。
石川さんご自身のことを伺いたいのですが、然別湖ネイチャーセンターには何年ほど勤められているんでしょうか?
平成4年くらいに入ったので、今年で32年目です。それまでは札幌でいろんな仕事を経験していました。札幌のホテルで働いていた時に雑誌で然別湖ネイチャーセンターを見つけて、実家の近くだと思って電話したのが入社のきっかけです。然別湖ネイチャーセンターが会社組織になったのが平成2年のことでした。
もともとアウトドアがお好きだったんですか?
子どもの頃から外で遊ぶのが楽しくて、釣りに行ったりとかキャンプしたりとか。学校終わったらついでに行くくらいだったので、自然の中で遊ぶのは当たり前でした。札幌で働いていた頃はアウトドアガイドという仕事があることも知らなかったです。ガイドと言ったらバスガイドとか登山ガイドとかで、まだ自然ガイドという職種はなかったように思います。
「BE-PAL」っていうアウトドアの雑誌があって、創刊したのが僕が高校生くらいの時でその頃からずっと愛読していました。この雑誌の「こんな仕事がしてみたい」という記事で然別湖ネイチャーセンターが載っていて電話をかけたんです。その記事で僕の他に2人来ましたね。
十勝で活躍されるガイドさんって然別湖ネイチャーセンターで働いた経験がある方も多いですよね。やっぱり十勝のパイオニア的な存在だと思います。
始まったのも早いですしね。
30年以上ガイドをされていますが、石川さんがガイドとして一番大事にしていることはなんですか?
せっかくここに来てもらったのだから、ここの自然を楽しんでほしいというのが一番です。ただ、楽しむというのは自分も楽しくないとお互いに楽しくない。でも楽しいだけだと駄目なので、カヌーを使ったりシーカヤックを使ったり、いろんな手法でみなさんと楽しみながら、自然の豊かさをわかってもらうように心がけています。
僕も上士幌で育ったのは高校生までだったので、然別湖に何度も訪れたことがあるわけじゃなかったし、自然の景色は暮らしの一部で当時は特に何も感じていなかった。でも札幌に出て働いて、一回地元を出たことで良さがわかるようになりました。
僕も出身が函館ですが、主に関東で働いていました。その後日本全国いろいろ回りましたが、最終的には北海道が好きだから戻って仕事がしたいと思って、観光という分野で働きたいと考えた時にこれからまだまだ伸びしろがありそうなところがいいなと思って十勝に来ました。
今後どういう方に十勝の自然を体験してほしいですか?
今は修学旅行生もたくさん来てくれていて、関東・関西からもよく来てくれます。日本にはいろいろな場所があることを広く知ってほしいので、若い世代の人にこそ来てほしいです。過去に修学旅行生とナイトウォッチングをしたことがあって、その時見た星空が人生で一番綺麗だったと30歳くらいになってまた来てくれたことがあったのはうれしかったですね。
十勝に住んでると星空が綺麗だなんて、どこでも当たり前かもしれない。でも然別湖だと灯りは1軒の温泉しかなくて、隣の湾に行くと人工的な灯りも音もない中で星空が見られる。こういうことは自分が地元にいた高校生の頃は考えたこともなかったので、若い人にこそ来てほしいと思います。
修学旅行生の受け入れはどのようにされているんでしょうか?
カヌーの体験とか、風穴の見学とか、エアトリップとか、釣り、マウンテンバイクまでいろいろあります。鹿追町は乗馬や牛の乳搾りの体験もできる場所があるので町の事業者さんとも協力します。さらに200名などの大人数になると新得町のTAC(とかちアドベンチャークラブ)やTOMのアウトドアガイドとも協力して受け入れています。
FIT(個人旅行)のお客様も多くなっていますよね。台湾の方とか。
今月(取材時の10月)は台湾からの予約が10件くらい入ってますね。紅葉と然別湖の景色を見に。夏も増えてきているので、これからもっと増えていくと思います。
今でもガイドの募集はされていますか?
ハロワークに出すなど表立って募集しているわけではないですが、募集自体はしています。良い人がいれば雇いたいですね。一番若いスタッフでも30代で、ほとんどが50代なんです。僕も最近60歳になりました。アウトドアガイドの業界って高年齢化が進んでいて若い人が少ない現状があります。なので若い人が来てくれるとうれしいですね。
次世代の育成も課題なんですね。然別湖ネイチャーセンターさんは事業所があって、比較的収入も安定していると思うので働きやすいのでは?
うちは冬のコタンもあって365日雇っていますから、安定はしている方ですね。
アウトドアガイドとして活躍するプレーヤーが増えてくれるといいですよね。僕も微力ながらそのお手伝いをしていきたいと思います。
最後に石川さんはAT(アドベンチャートラベル)についてどう考えていますか?
ATに可能性は感じています。ただ一時始まる前に騒がれていた印象があるのと、富裕層向けだと思いますがそれだけだと厳しい面もあるのでは、と。そのうちニセコなどからも人が流れてくると思いますが、そのためには十勝のよさはまだまだ知ってもらえてないと思います。
うちも英語だったり、中国語だったりと対応できるスタッフもいますので、そういう人たちが増えてきたらいいですね。もともと通訳をしていた人が自然ガイドの資格を取りにきたこともありましたし、人材が増えていけば仕事も増えてくると思うので。ATだと特に意識することなく続けていけば、自ずとATに近づいていくような気もしています。
僕もATの概念自体は本質をついてると感じていいます。なので「アドベンチャートラベル」という言葉に惑わされることなく、本質を理解した上でガイディングするプレーヤーに増えていってほしいです。
北海道って地名をとってもアイヌ語由来のものも多く、なんだかんだと歴史的な側面が絡んできますしね。
長いガイド生活の中で培われた自然への造詣の深さと、包み込むような温かな人柄を感じさせてくれた石川さん。ネイチャートレッキングと一口にいっても、専門的なガイドがあることによって体験の価値は数倍にも跳ね上がるということを体感した機会となりました。次世代に自然の豊かさを伝え、残していくための礎としても活躍する石川さんのガイド、あなたもぜひ体験してみてください。
然別湖ネイチャーセンターには今回のシーカヤック&東雲湖トレッキングの他にもさまざまなアクティビティがあります。石川さんと然別湖を満喫したい方は然別湖ネイチャーセンターまでお問い合わせください。
【HP】https://www.nature-center.jp/
工藤さんが勤務するデスティネーション十勝では、十勝でガイド業にチャレンジしたい方を募集中!
なんとなく興味を持っているという方も歓迎です。
募集期限:2025年2月28日(金)まで
問い合わせはこちら jimukyoku.dt★gmail.com(★を@に変更して送信してください。)
担当:工藤
アドベンチャートラベルとは「アクティビティ」「自然」「異文化体験」の3つの要素のうち2つ以上を組み合わせた旅行形態のこと。本質的にはアクティビティを通じて自然体験や異文化体験を行い、地域の人々との触れ合いを楽しみながら、その土地の自然と文化をより深く知ることで自分の内面が変わっていくような旅行体験のことを指します。アドベンチャートラベラーが満足するツアーを提供するためには、地域を案内するガイドの存在が必要不可欠なのです。