【十勝をもっとアクティブに満喫!】第7回 野村竜介さん

今回のインタビューの舞台は新得町屈足湖のそばにあるTACとかちアドベンチャークラブ。ログハウス調の事務所で私たちを待っていてくれたのは代表の野村竜介さんです。野村さんは北海道アウトドアガイド資格のラフティングとカヌーの検定官をも務める、十勝におけるアウトドアガイドの代名詞的な人物。今年の春に野村さんのガイドの元、ラフティングを経験したという工藤さんとともにじっくりお話を伺いました。(聞き手:クナウパブリッシング 大西)

工藤さん

今までも野村さんには何回かお話聞いていますが、改めて生い立ちから伺ってもいいですか?

野村さん

札幌出身で大学までは札幌にいました。卒業して1回就職で関東に出たんですが、働いているうちに「なんかちょっと違うな」と思い始め、仕事を辞めてワーホリで1年ニュージーランドに国外逃亡しました。そこでいろいろ遊んだり働いたりしたのですが、ニュージーランドって北海道と違ってアウトドアの環境が充実していて、もともとアウトドアが好きというのはあったんですが、印象深い体験をいくつもしました。その時のことは自分の中の原体験になっていますね。

野村さん

日本に戻ってからはたいしてやりたいこともなく、次は何をしようかと考えながら過ごしていた時に、親戚のつながりで十勝の新得町でアウトドアの事業を立ち上げようとしている人がいるよと紹介してもらって。そうしてTACに来ることになりました。

工藤さん

TACの立ち上げの時から携わってらっしゃるんですね。

野村さん

最初にここに連れてきてもらった時は、ここら辺はただの畑でなんにもなくて、「ここにこういう建物ができるぞ」みたいな話だけ笑。スタートはそこからでした。

工藤さん

大変そうですが、何もないところから形になっていくのが見れるのは面白そうですね。札幌に住んでいらっしゃった時からアウトドアには興味があったんですか?

野村さん

そうですね。外で遊ぶのとか、体を動かすことは好きでした。ただカヌーとかの水辺のアクティビティをやっていたとかは全くなくて。水泳だけは高校までずっとやっていて、週6日泳いでるみたいな学生時代でした。それとは別にスキーはずっと好きでやってましたね。それでニュージーランドに行って、ラフティングやカヌー、シーカヤックなどをやったらすごく面白くて、ただそれが生業になるとかはあんまりイメージ湧かなかったです。そもそもニュージーランドに行ったのもスキーができるから、でしたから。日本にいた時は水辺のアクティビティはあまり見えていなかったんですが、ニュージーランドに行ったことでそういう世界があることを知ったっていうのは大きかったですね。今の自分がラフティングやカヌーのガイドをしているのにつながっています。

ガイドの野村さんとラフティングに出発です!
工藤さん

ニュージーランドってアウトドアがすごく進んでいるイメージがあるんですが、日本の状況とは違いましたか?

野村さん

それこそニュージーランドに行ったのは30年くらい前のことなんですけど、その頃からアクティビティが産業として成り立っている国でした。各地に観光客向けのインフォメーションセンターみたいなのがあって、そこに行けば情報も得られるし、アクティビティの予約もできるし、バスの予約まで行えてここから次の場所へ行けるみたいに全部ワンストップでできる仕組みがすでにありました。

工藤さん

それは窓口を運営している会社があったんですか?

野村さん

多分公共の機関だったと思います。当時はインターネットもないし、紙媒体が情報源でしたからどこにいっても同じサインを使用したインフォメーションがあるのは、僕みたいに宿泊する場所も何も決めないで行った人間にはありがたかったです。極端な話だと仕事もそこで探しました。掲示板に手書きで地元の農家さんの農作業バイトの情報が書かれていたりとかね。滞在するシェアハウスを探したのも全部そいういう場所でした。

工藤さん

十勝でもそういうのがあったらいいなという理想形みたいな感じですね。それが30年も前からあったのはすごい。ある意味僕が今後なりたいと目指しているポジションでもあります。

野村さん

それこそうちの先代が立ち上げの時に視察でニュージーランドに行ったりして、25年前からそういうことをやりたいって言ってたんですよね。だからそれを僕は聞いていたし、見ていたし、共感して受け継いできた。加えて十勝に魅力も感じたから今に至っているわけです。

工藤さん

現在はラフティングをメインに、冬のスキーのアクティビティなどを取り扱っているわけですが、今後さらにやってみたいアクティビティなどはありますか?

野村さん

夏はラフティングでいいんだけど、冬はまだまだ売上になっている感じではなくて。3年前くらいから北海道アヴァント(※)が好調で冬の生活基盤にはなってきているからありがたいことなんですが、それはそれとして、現在売り出している何種類かの冬のアクティビティは実はほとんど動いてないんです。だからそれを動かすためにどうするのか。アドベンチャートラベルに関心の高い層や雪のない国から来た人とかに選んでもらいやすいよう、1DAYとか1泊2日とかのプログラムを商品として出せるようにしたいですね。2時間とか半日だと選びづらいし、旅行先で行く目的地にはならないんでしょうね。

(※)北海道アヴァントとは…新得町の屈足湖で冬季に開催されるサウナ体験のこと。サウナで身体を温めた後、凍った湖面に空けた穴に入り湖の冷水でクールダウン。本場フィンランドのサウナ文化を体験できます。

工藤さん

帯広の方に滞在している方であれば、半日なにかしたいと新得にくることとかはありだと思うんですけど、そもそも冬の入れ込み客数が少ないという問題もありますね。

野村さん

雪がすごい観光資源なのは間違いないんだけど、確実にそれを商品化できていない僕らの問題でもあるんですけどね。

十勝川の急流を下ります。上下に揺れたり水を被ったりしながら進みます。工藤さんは余裕の笑顔です。
工藤さん

ニセコ、富良野はスキーという代名詞がありますけど、十勝は雪が少ないですしね…。野村さんは、でもこれって十勝だからいいよね、という冬のアクティビティを思いついていますか?

野村さん

なかなか難しいですね。ただ、本当は吹雪体験とかそういうのでもいいんじゃないかと思っています。雪がないところの人だとホワイトアウトを体験したり、一面雪が降りしきる中で畑の真ん中で寝っ転がったりとか、そういうのに需要があるんだろうなと思ってはいて。それを商品化して売り出すことがまだできてないんですよ。スキーやスノーボードが大きなマーケットで需要があることはわかっているんだけど、競合他社も多くてお客さんを取り合うことにもなる。そういうのはやりたくなくて。地元の日常っぽいものを体験にできないかと。さらに食と一緒にパッケージをつくらないとダメだなって最近すごく感じています。

工藤さん

食が十勝の良さを感じてもらうツアーの中の一つの要素になる、ということですね。

野村さん

体験することよりもおいしいものを食べるという方が旅行のモチベーションとして大きいような気がしていて。僕らは脇役で食べ物の間と間にアクティビティがある、という立ち位置でもいいのかなって。ただ食の前後の楽しみ方っていうのは俺等が考えてやっていかなきゃいけないことだから、そこは工夫しないとダメな部分ですけどね。

野村さん

例えばなんですけど、新得町って北海道の重心があるんです。夏は笹薮を超えていかなきゃいけないような場所にあるので、基本的には冬~春にしか行けないんですよ。歩くのも片道3~4時間かかる。こういうのをやりたい人って一般的じゃないんですが、やりたい人は少なくともいる。幅広くではなく、きちんとターゲットを意識して商品を作ってくことが大切ですよね。

工藤さん

可能性はすごい感じますね。

野村さん

だからこそパッケージもそうだし、見せ方だったり発信だったり、「ここでしかできない」みたいなことを強く出せていないからこそまだ選ばれないんだなぁってね。

工藤さん

この点は一事業者だけでなく十勝全体の課題なんでしょうね。

野村さん

だから面白いコンテンツをポンっとやるっていうのは一つわかりやすいことだと思います。アヴァントみたいな。面白いことをやっていれば仲間はついてくる。面白いことをやるのが僕らの役目で、行政とかいろんな組織の方がそれ面白そうだねって興味持って来てくれて、協力してもらうみたいなね。アヴァントは本当にいい例になってくれていて、これがあったおかげで「できる」って思えるようになったので。

ラフティングの後はカヌーに乗り換えて屈足湖を進みます。穏やかな水面をゆったり進む癒やしの時間。屈足湖の名物の崖「ガンケ」も近くから眺められます。
工藤さん

話題が変わるんですが、野村さんがガイドとして一番大事にしていることはなんですか?

野村さん

来てくれたゲストが体験する前に想像していた期待値を超えることはまず最低限のライン。そこからサプライズや感動を上積みすることが僕らガイドのやらなきゃいけないことだと思っていて、スタッフのみんなにも伝えています。最低限の期待値を超えた上で、なにか1個ちょっとでも感動してもらう。これをやることが大事だと思う。ただ最低限をきちんとやるということが当たり前で普通のことなんだけど意外と難しいみたいで。ガイドも接客業なので、ゲストが選んでくれるからこそ対価をいただけて僕らのご飯になっている。こういったゲストへの感謝の気持ちがあれば最低限のことって当たり前にクリアできるはずなんです。ただそういうゲストへの感謝やリスペクトをなかなか持ちづらい時代になってきているのかなと感じることもある。ある意味すごく低いレベルなんですが、それを全員ができるようになるのって難しいですね。

工藤さん

僕も接客業の経験があるので、すごくわかります。

野村さん

当たり前のことを当たり前にやる、というだけなんですけどね。ただ今の世の中それができれば一段上に見てもらえるんです。うちの子たちにも教えてあげたいことなんだけど、なかなか言葉で伝えてわかってもらうのは難しい。

工藤さん

例えばその当たり前ができたとして、ゲストの期待値ってゲストごとに違うものですよね。そこを見出してクリアして、さらに感動を与えるってすごく難しいことにも思えるんですが、なにかテクニックみたいなものはあるんですか?

野村さん

それはこっちのアンテナを高くするしかないですね。事務所に入ってくるときにどんな顔をしているのか。すごい心配そうな顔をしているのか、それともめちゃめちゃ慣れている人なのか、それによって対応が異なるじゃないですか。だから自分のアンテナの感度を上げておくしかない。TACはマニュアルがないんですよね。接客ってマニュアルに載せる事例を挙げ始めたらキリがないじゃないですか。ついでにいうと接客は個人の裁量が大きくて、でもそこが俺らガイドの仕事の魅力でもあるし、個性が出せるところだから、よりゲストへの対応はガイド一人ひとりで違うはず。全然接客業に向いてなさそうなタイプなのに、その人が対応したらゲストがめちゃめちゃその人のファンになることもあるんですよね。それってマニュアルで縛りたくないじゃないですか。ガイドっていう仕事は100人いたら100通りでいいんだし、自分の個性を商品にできる素敵な職業だと思いますよ。

ガンケを背景に記念撮影!ラフティングとカヌーと盛りだくさんで達成感に包まれたツアーでした。
工藤さん

確かに、自分の個性が商売になる仕事って面白いですよね。

野村さん

ガイドの仕事ってゲストへの対応はいろんなパターンがあるし、それも自分の個性で対応を考えるじゃないですか。このゲストにはこう攻めてみようかな、とか。そういうのを自分で工夫して考えながらやって、あるゲストへの対応がピタッとはまったらすごい楽しい。失敗もめっちゃあるけど、そういう時はこっちじゃなかった、どうやって挽回しようかって次の手を考えてすぐに実践できるのもガイドだからできること。そういうのをやれるのが楽しい仕事ですね。

工藤さん

僕がガイドにとって一番大事な資質だと思っているのが感受性の豊かさなんですよね。相手の気持が感じ取れるか、察せられているのか。知識とかはその後についてくるのかなと。そういう意味では向いている人、向いていない人がいる職業なのかなと思います。あとやっぱりどれだけのことを経験しているのかというのも大切だと感じています。ゲストへの対応って引き出しの多さが必要ですよね。

野村さん

だからこそ僕らみたいなベテランは、その引き出しを増やす時間を短縮させてあげることが大事ですよね。経験談とか失敗例を話すとか。ガイドの仕事に答えはないんだろうし、失敗もたくさんしないとたどり着けない。根っことしては面白いし、やるがいもあるし、楽しいし、素敵な職業だからまずはやってみたいというひとたちに入口を広げてあげたいと思います。

インタビューはTACの事務所にて。野村さんと工藤さんは1時間ちょっとじっくり話し合いました。
工藤さん

最後に、アドベンチャートラベル(以後AT)について野村さんはどう思っていらっしゃるのか教えていただけますか?

野村さん

これから先は外貨を獲得していかないと社会が成り立たなくなってくると思うんですよね。観光はそのための主産業で、ATの方向性は賛成だしやっていくしかないと思ってるんで。それにATと言っているだけで、今までやってきた地域観光の延長だとも思っています。

工藤さん

他の事業者さんのところでも伺ったんですが。地域の魅力とか本質的なところを学んでもらうところがアドベンチャートラベルにつながっていく、という捉え方が多くて。でも実のところそれは今までもやってきたことだとおっしゃってる方が多かったですね。

野村さん

ただ、ターゲットが国内なのか国外なのかよくわからなかったのが、国外の人に向けてこう発信しましょう!という方向性の動機づけにはなっているかなと思いますね。足元の魅力を振り返ったり、国外の人にどう見せていけばいいのかとか考える良い機会になっています。ただ僕は仕組みづくりや資格制度について携わっているから、そういう点でこれ大丈夫かなと思うことはあります。ATが推進されて、ガイドの重要性が高まったからいろんな講座をやったり資金を投入してやっていると思うんだけど、それにしては登録ガイドが少ないよなぁって。北海道でこれだけアウトドアガイドのことをやっているはずなのに、100人いないんじゃないかな?なり手がいない。登録ガイドを取得するメリットを見い出せてないんですよね。北海道のアウトドアガイド資格もずっとあるんですけど、受験者が増えたのはコロナの時だけで。それも登録ガイドがいる事業所には補助金が出ますよってお触れがあってのことですから。質のいい人を増やしたいのであれば、そいういう資格制度や資格に伴うメリット・デメリットをしっかり明記してもっと利用されるような形で整えていくべきだろうなと思っています。

インタビュー終わりのお二人を撮影。忌憚のない意見の応酬で充実の時間になりました。

どんな状況でも笑顔を絶やさず、大きな懐で受け止めてくれる野村さんの人柄に惹かれるインタビューでした。ゲストの中には野村さんと一緒だったからより楽しかったと思って体験を終えられる方も多いのでは。数々の思い出の中に野村さんの笑顔もずっと残っていくのだと思うと、ガイドという職業の素敵さに改めて気づかされました。

野村さんのラフティングに興味がある方は、0156-65-2727にお電話かまたはmail@tac-go-go.comにメールでご連絡ください。
HPの予約フォームからも各種アクティビティにお申し込みいただけます。
【HP】http://tac-go-go.com

工藤さんが勤務するデスティネーション十勝では、十勝でガイド業にチャレンジしたい方を募集中!
なんとなく興味を持っているという方も歓迎です。
募集期限:2025年2月28日(金)まで
問い合わせはこちら jimukyoku.dt★gmail.com(★を@に変更して送信してください。)
担当:工藤

最近の旅行トレンド:アドベンチャートラベル(AT)

アドベンチャートラベルとは「アクティビティ」「自然」「異文化体験」の3つの要素のうち2つ以上を組み合わせた旅行形態のこと。本質的にはアクティビティを通じて自然体験や異文化体験を行い、地域の人々との触れ合いを楽しみながら、その土地の自然と文化をより深く知ることで自分の内面が変わっていくような旅行体験のことを指します。アドベンチャートラベラーが満足するツアーを提供するためには、地域を案内するガイドの存在が必要不可欠なのです。