パティシェという生き方①――Cake&Cafe あちろ/織田 武司さん

十勝で活躍する3人の菓子職人にインタビュー。
3人はなぜパティシェという道を選んだのか。そして菓子作りにかける思いとは――。

第1回は「Cake&Cafe あちろ」の織田 武司(おりた たけし)さんにお話を伺った。

十勝という土地でケーキを作る意味。菓子に込める熱い想い

ショーケースには常時約25種類ほどのケーキが並ぶ。

織田さんの周囲には、幼い頃から人が絶えなかった。自宅にはよく友人たちが遊びに来て、母がお手製のごはんを振る舞っていた。ごはんを食べると、友人たちはたちまち笑顔になり、楽しげに喜んだという。あふれる笑顔と、それを生み出す料理をつくる母の背中。織田さんに芽生えた「料理を作る人になりたい」という強い意志の原風景がそこにはあった。

高校卒業後、すぐにでも働きたいとホテルの調理場に就職。料理人を志していたが、配属されたのはなんと洋菓子部門だった。予想外の配属に戸惑うも、上司から「洋菓子のデザインと季節感を勉強することは今後のためになる」といわれ、言いくるめられたと感じながらもパティシエとしての第一歩を踏み出した。

しかしホテルの現場は長くは続かず、その後内装屋へと職を変えるも、バイク事故で入院。大けがを負い、改めて自身の人生について考えていた時、声をかけてくれたのがホテル時代の上司だった。ホテルを出て自身の店を経営していた上司は、「自分のところで働いたらどうだ」と織田さんを再び菓子の世界へと誘ってくれた。そうして織田さんはパティシエとしての人生をリスタートさせることとなった。

8年ほどの厳しい下積みを経て、地元帯広市に戻ってきた織田さんは「北海道ホテル」のパティシエ部門で働いていたが、忙しく過ぎる日々の中で「何か物足りない」というほのかな焦燥感を感じていたという。そんな時、耳に入ってきたのが札幌駅に「ミクニサッポロ」ができるという話だった。

「憧れていたパティシエに寺井則彦さんという方がいて。雑誌とかで見ていて、抜群にうまそうって。好みとか食材の合わせ方とか掻き立てられるものがあったんですよね。その方が当時ミクニグループの統括シェフをされていて、もしかして寺井さんと繋がれるチャンスかもしれないって思いました」

東京で働く長年付き合いのある先輩パティシエに、ミクニに行きたいと相談すると、折しもその先輩がミクニサッポロのシェフパティシエに内定しているという運命的な巡り合わせもあり、織田さんは憧れのパティシエに師事できることとなった。ミクニサッポロ時代に得られた経験は何にも代えがたく織田さんの中に根付いている。トップクラスの現場の空気感、熱い同僚たち、ケーキに対する真摯な姿勢。

「お客さんに喜んでほしくても、ハリボテみたいなケーキを作っていたらお客さんには何も伝わらない。自分の想いを、どう形にしたら伝わるのか。考えてケーキを作るということを学びましたね」

テイクアウトのケーキや焼き菓子の他、店内限定のデセールや手持ちパフェなども人気を集めている。

数年後、家庭のこともあり再び帯広に戻ってきた織田さんは、「十勝トテッポ工房」のシェフパティシエとして店の立ち上げから軌道に乗せるまで、ひたむきに奔走することになる。この時に得られたものが、十勝の生産者たちとのつながりだ。十勝でやるからには十勝ならではのものをという思いで、十勝という土地柄を活かしたスイーツとして、ナチュラルチーズのケーキを作り上げた。自分で食材を探し、生産者を直接訪ねる。今も続く織田さんのワークスタイルはこの時築かれた。

独立し、自身のお店「Cake&Cafe あちろ」を開業したのは2015年のこと。織田さんがあちろのスイーツを生み出す時、常に「自分がやる意味」を考えるという。

「十勝の食材に触れて、みんなが住んでいる土地にはこんなに素晴らしい素材があるんだよということを、お菓子という形にして1人でも多くの人に伝えたいと思っています」

あちろのスイーツたちには、十勝という大地の息遣いが込められている。ミクニ時代の修行を経て、パティシエとして生まれ変わったからこそ、改めて十勝が素材の宝庫だと気がついたという織田さん。これからも十勝に寄り添い、「ここで自分にしかできない仕事を」という信条のもと、たくさんのスイーツを生み出してくれることだろう。

デリスブール 530円
ヘーゼルナッツのペースト入りバタークリームを挟んだバターたっぷりの逸品。風味豊かでありながらしつこくない、絶妙なバランスの仕上がり。

イチゴタルト 581円
照り輝くイチゴが魅惑的な人気No.1。上品なカスタードにサクホロの香ばしいタルト生地。マリアージュの真髄がここに。

あんバタシュー 380円
ザクザクとしたシュー生地の中には特製のつぶ餡カスタードがみっちり。存在感のあるよつ葉のバターの塩気がいい塩梅。

Profile

織田 武司さん
和歌山県出身。中学時代に帯広市に移住。幕別高校卒業後の1990年に、札幌のホテルの菓子部門に就職。2004年ミクニサッポロ、2010年十勝トテッポ工房のシェフパティシエとして立ち上げに尽力2015年自身の店「Cake&Cafeあちろ」を開業。趣味はミニ四駆とバンド、釣り。

Cake&Cafe あちろ
電話番号 0155-67-6921
住所 帯広市西7条南24丁目41
営業時間 10:00~18:00
定休日 12/5・12・19・26・27・31~1/4 【禁煙】

※掲載内容は2022年11月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますのでご了承ください。