【TOKACHI SOUL FOOD】02 豚丼

食べると思い出す景色がある。匂いをかぐとこみ上げる思い出がある。遠く離れていても故郷の思い出は懐かしい味とともにある。ソウルフードとは、心に刻まれた思い入れのある料理をいう。十勝に住むわたしたちのソウルフードとは何だろう。これらを食べて育ってきた。きっとこれからも味わってゆくのだろう。名前を聞いただけで、その味が思い出されるほどに。十勝のDNAとして刻まれた、ソウルフードに迫る。

お店にも家庭にも
十勝に深く宿る豚丼の物語

はげ天の「特選豚丼(4枚)」(1,100円)。甘さ控えめのタレをつけてから高温で一気に焼き上げた大ぶりの豚肉と、タレが染み込んだご飯に黒コショウのアクセント。ボリューム満点ながらさらっと食べられるのが魅力。

ソウルフードとなるべき食べ物には2通りあるのではないか。一つは、そこに行かなければ食べられない唯一無二のもの。もう一つは、使われる食材や調理法が一般的で、飲食店でも一般家庭でも工夫やアレンジの余地があるもの。豚丼は間違いなく後者であろう。

今や十勝のソウルフードであり郷土料理でもある豚丼は、1933年に帯広駅前に創業した「ぱんちょう」の阿部秀司氏によって考案された。洋食屋として開店したぱんちょうだが、独自のメニュー開発の過程でうなぎのかば焼きからヒントを得て誕生したのが豚丼だったという。

ぱんちょうの「豚丼 梅」(1,150円)。元祖炭火焼き豚丼。炭で炙ることで余分な脂が落ち、外側がカリっと香ばしく、中はジューシーに焼き上がる。肉の枚数で松・竹・梅・華と4段階から選べるのも嬉しい。

時代の波を乗り越えて地域で創り上げた料理

1934年創業の「はげ天」でも古くから豚丼が提供されていたと話すのは、取締役本店長の矢野航平さん。初代・矢野省六氏のひ孫にあたる。はげ天に限らず大衆食堂が帯広駅前に続々と誕生した昭和初期。飲食店同士の激しい競争の中で生み出されたのが豚丼であり、それが瞬く間に他のお店に広がっていったことは想像に難くない。砂糖やみりん、醤油で甘じょっぱく味付けした豚肉を炭火で香ばしく焼き上げ、白飯の上にのせるという、当時では決して安くはない食材を使った新しい丼は、飲食店の間でも話題になったことだろう。

その後、食糧統制の時代を経ても豚丼は生き残り、昭和30年代には一般大衆にまで広がっていく。ぱんちょうが豚丼専門店となったのもこの頃である。はげ天も天ぷらを中心とした和食専門店としての地位を確立。その他の飲食店も専門化していき、それぞれの店が個性を発揮する中、それでも共通して提供されたのが豚丼だ。各店が作り方やタレの味の違いを鮮明にしながら、「豚丼を帯広の名物に」を合言葉に皆で普及に努めたという。北海道のどこでも豚丼をみかけるようになった今、豚丼がなぜここまで人々に愛され、ソウルフードと呼ばれるまでになったのか。航平さんは「家庭でも作りやすいのが大きいのでは」と考察する。醤油と砂糖の組み合わせという親近感、豚肉の加熱方法にも縛りなし、あっという間に調理できるお手軽感。航平さんのいうように、家庭の味として浸透したことが、豚丼が十勝のソウルフードと呼ばれるようになった所以だろう。それ故に、豚丼を提供する飲食店は工夫を凝らす。はげ天では炭火と同程度の高温で、かつ一定の火力で調理できる電気グリルを古くから採用。甘さを控えたタレにくぐらせた豚肉を香ばしく焼き上げたはげ天の豚丼は、コクがありながらもすっきりとした味わいが印象的だ。

今や日本国内では知らない人はいないであろう豚丼が、海を越えて外国の人たちのソウルフードとなるかもしれない。この夏、香港に続きシンガポールにはげ天が進出する。「地元では皆さんに愛された味を守りながら、海外では新たなことに挑戦する」と航平さん。私たちのソウルフード「豚丼」が日本中、世界中の人を魅了することを想像すると心躍らずにはいられない。

帯広はげ天本店
電話番号 0155-23-4478
住所 帯広市西1南10-5 
営業時間 11:00~15:00、17:00~20:00
定休日 不定休

豚丼のぱんちょう
電話番号 0155-22-1974
住所 帯広市西1南11-19 
営業時間 11:00~19:00
定休日 月曜、第1・3火曜