【TOKACHI SOUL FOOD】05 中華ちらし

食べると思い出す景色がある。匂いをかぐとこみ上げる思い出がある。遠く離れていても故郷の思い出は懐かしい味とともにある。ソウルフードとは、心に刻まれた思い入れのある料理をいう。十勝に住むわたしたちのソウルフードとは何だろう。これらを食べて育ってきた。きっとこれからも味わってゆくのだろう。名前を聞いただけで、その味が思い出されるほどに。十勝のDNAとして刻まれた、ソウルフードに迫る。

十勝グルメといえば思い出す納得のソウルフード。
ユニークなネーミングも特徴的だ

「元祖あじ福 中華ちらし(スープ・漬物付)」(930円)。野菜の甘みや肉・魚介の旨みを程よく吸ったふんわり卵が味わい深い。甘じょっぱい味付けでごはんが進む。

中華ちらしといわれても、十勝管外出身の方には姿形、味が想像もつかないものらしい。その名から「ちらし寿司」や「酢飯」等のイメージが浮かぶという。

中華ちらしは野菜や豚肉、魚介などの具材を炒め、いり卵と合わせて砂糖や醤油で味付けしたものをごはんの上に乗せた料理。素材の持つ旨みとその材料の組み合わせが店の持ち味で、絶妙な味わいが楽しめるご当地グルメだ。原型は豚肉やキクラゲ、季節の青菜などを細切りにし、卵を加えた中国料理「木須肉(ムースーロー)」といわれる。

十勝民の心に刻まれた、隠れご当地メニュー

「中華ちらし」(1,200円)。8種類の具材が大きめで、食感を楽しめる一品。しっかりした味付けながらも上品な味わい。

その始まりは1967年、当時帯広市内にあった「割烹松竹」に勤めていた故・池田直彦さんが作ったまかない飯。ごはんの上にのったさまざまな具材の彩りがちらし寿司のように華やかだったことからこの名がついた。1968年頃から店のメニューとして登場したという。食欲をそそる甘じょっぱい香りと、たっぷりの具材にふんわり卵。栄養もボリュームもある一品は瞬く間に人気メニューとなった。池田さんはその後、松竹が火災に遭ったのを機に独立し1971年に「味福」を開店する。実は当初のメニューには中華ちらしは無く、そこで味が途絶えていた可能性もあったという。割烹松竹で一緒に働いていた従業員がその味を食べたがったことからメニューに加わったそうだ。そうやってかつて松竹で一緒に働いていた料理人たち(当時松竹はチェーンとして割烹、レストラン、クラブを経営し、和洋中さまざまな料理人が揃っていた)や、池田さんの味を受け継いだ人たちが、自身の店で中華ちらしを広めていった。現在の「あじ福 東店・みなみ野店」は池田さんの子どもたちにあたる。

さて、その名が全国に知られたのは2009年のこと。全国のご当地グルメを紹介するテレビ番組で取り上げられた。十勝民以外、北海道民にすらあまり知られていなかった中華ちらしは一躍ブームに。その後も数度にわたり全国放送の人気番組で紹介されることとなる。

美珍樓で中華ちらしが登場したのはその後2010年代初めだったという。生粋の中国料理ではないことからメニューには無かった。しかし、常連さんたちからの要望と、ブームで観光客からも中華ちらしを求める声が多く、メニュー化に至ったという。「中華ちらし界の中では新参者です」と語るのは代表取締役総料理長の鈴木邦彦さん。美珍樓の中華ちらしはエビやキノコなどのゴロッと大きな具材が特徴的だ。

現在中華ちらしを提供している店は決して多くはない。豚丼のように専門店があるわけでもない。発祥から50年以上、テレビで紹介された以外は特に宣伝の仕掛けや取り組みも無く、今や隠れたご当地メニューといわれ、メニューができた当時を語る人は少なくなった。それでも「あの味が忘れられない」と、中華ちらしを十勝のソウルフードだと語る人は多い。このメニューが次世代に受け継がれ、長く続くことを切に願う。

取材協力/あじ福取締役社長 池田苫英智さん
※本記事の内容、年代には諸説あるものもあります。

代表取締役 鈴木邦彦さん

あじ福 みなみ野店
電話番号 0155-48-3719
住所 帯広市南の森2-12-19 
営業時間 11:00 ~ 14:00(L.O.13:30)、18:00 ~ 20:00(L.O.19:30)
     ※土・日曜夜、祝日夜はテイクアウトのみ
定休日 月・木曜

美珍樓西家
電話番号 0155-33-0030
住所 帯広市西19 南2-25-9 
営業時間 11:00 ~ 14:30、17:00 ~ 21:30(L.O.30 分前)
定休日 月曜