【TOKACHI SOUL FOOD】03 満寿屋商店

食べると思い出す景色がある。匂いをかぐとこみ上げる思い出がある。遠く離れていても故郷の思い出は懐かしい味とともにある。ソウルフードとは、心に刻まれた思い入れのある料理をいう。十勝に住むわたしたちのソウルフードとは何だろう。これらを食べて育ってきた。きっとこれからも味わってゆくのだろう。名前を聞いただけで、その味が思い出されるほどに。十勝のDNAとして刻まれた、ソウルフードに迫る。

農家のためのパンから十勝のためのパンに。
進化し続ける十勝生まれのパン

多くの人にとって、心に刻まれた思い入れのあるグルメをソウルフードと呼ぶのであれば、ますやのパンは、一般の定義の枠からは少し外れるのかもしれない。それはどのパンがソウルフードなのかは、ますやを愛する一人ひとりの心に尋ねなくてはいけないからだ。けれど、人々は口を揃えて言う。「ますやのパンは十勝のソウルフードだ」と。

1950年創業の満寿屋商店。「ますや」の名で地元民に親しまれ、現在は2022年に誕生した一番新しい店舗「みちます」(道の駅おとふけ内)をはじめ、十勝管内で7店舗を展開している。店舗ごとにコンセプトや商品ラインナップが異なるのも魅力で、それぞれにファンがついているのも、多数の店舗を展開するベーカリーとしては珍しい点かもしれない。

ますやの大きな転換点となったのは2012年。全店舗で十勝産小麦100%使用を達成したことだ。二代目の想いは後世に受け継がれ、23年の年月を経てようやく実現した。父・母・子の3人でつないだオール十勝のバトン。この出来事が、ますやの「ソウルフード」としての地位を確かなものにしたのは間違いないだろう。ではそのはじまりは一体どのようなものだったのだろうか。

1976年、杉山健治さん・輝子さんの間に長男として生まれる。高校卒業後大学進学で鹿児島県へ渡るも、バイト先のパン屋で「パン屋がいい仕事だと気がついた」そう。米国へパンづくりを学びに留学。その後大手製粉メーカー勤務を経て帰郷。2007年4代目社長就任。十勝をパン王国にするという夢の実現に向けて、日々邁進している。

十勝産へのこだわりを追求し続けたからこその「十勝のパン」

写真提供/株式会社 満寿屋商店

1950年、戦後まもなく創業した満寿屋商店(以下ますや)。創業者の杉山健一さんは、自身の母の名である「マス」を由来に店を名付けた。何故パン屋だったのかというと、「パンを作っていれば食べ物に困ることはないだろう」というシンプルな理由だったそうだ。戦後の日本のパンといえば、やわらかくて甘いパンが主流で、ますやも例にもれずアンパンやドーナツなど菓子パンを主力商品として取り扱っていた。帯広の街中(現在の本店の場所)で営業していたますやのパンが、広大な十勝平野の至るところで食べられていたのにはわけがある。それはますやのルーツと深く関わってくる「農家のためのパン」という点だ。

農家では繁忙期になると「出面(でめん)さん」という、臨時で農作業に従事する人を雇い、大人数で畑仕事に追われることになる。一日中続く仕事の合間の10時と3時のおやつは当たり前の風景で、このおやつとして人気だったのがますやのパンだ。「おにぎりだと気温が高くて傷んでしまうことがありますよね。その点甘いパンならしっかり砂糖が使われているのでちょっとやそっとじゃ傷まない。そういった部分も評価されていたんだと思います」と話すのは四代目の杉山雅則さん。創業当時からあるアンパンなどは「畑の上で一番おいしく食べられるように」と設計されているのだから驚きだ。味がおいしく、安心して食べられる。出面さんたちの間で評判になったますやは、一度に大量購入する農家さんたちも数多く訪れ、また各地を回る行商人たちも購入していくことで、十勝全域に広まっていった。1日2︐500人が訪れる超人気パン屋になったのも必然だったのだろう。

ますやが地産小麦でのパン作りを志したのは、健一さんの息子の健治さんが二代目として活躍していた頃。当時はまだ国産パン用小麦はほとんど作られておらず、まさに茨の道。しかし十勝に住んでいるからこそ、身近な小麦畑の風景に想いは止まらなかった。道なき道を切り開いた二代目の礎を、三、四代目がつないで達成した全店舗での十勝産小麦100%使用。十勝の人はとりわけ自分たちが住む土地である十勝が大好きだ。十勝産小麦を100%使用したパンは、発売時から明らかに反応が良かったという。「実際にお客様から、十勝産にしてくれてありがとう、という言葉をいただいたことがあります」と雅則さんは嬉しそうに語った。

地域で育まれたものを、地域に生きる人々が食べる。ますやの信念が生み出す安心安全の十勝産のパンは、これからもずっと十勝のソウルフードとして愛され続けるはずだ。

写真提供/株式会社 満寿屋商店

満寿屋本店
電話番号 0155-23-4659
住所 帯広市西1南10 

ボヌールマスヤ
電話番号 0155-33-4659
住所 帯広市西17南3 

満寿屋音更店
電話番号 0155-30-4659
住所 音更町木野大通西17-1 

トラントラン
電話番号 0155-26-3296
住所 帯広市西3南12 帯広駅西口 エスタ帯広西館 

めむろ窯
電話番号 0155-62-6966
住所 芽室町東めむろ3条南1 

麦音
電話番号 0155-67-4659
住所 帯広市稲田町南8線西16 

みちます
電話番号 0155-67-4630
住所 音更町なつぞら2