編集部のラーメン好きが自分の推しの一杯をご紹介。推しをこの世に生み出した、至高の職人たちに会いに行く。
第1回目、編集部Oが紹介するのは『麺やいつき』の煮干しら~めん。
首都圏では数年前からトレンドになっている煮干し系ラーメン。十勝ではまだそれほど見かけない味わいが、帯広のとあるお店で徐々に人気を集めている。
新しい店の味をつくる挑戦
「推しの一杯を紹介してほしい」。この取材テーマが与えられた時、コンマ1秒もかからずに「麺やいつきの塩煮干しにしよう」と即決した。それほどまでに、ここ数年私の心はこの一杯にガッチリと鷲掴みにされていた。
初めて食べた時に受けた衝撃は今でも忘れられない。麺を啜った瞬間、口も鼻も肺も、ありとあらゆる呼吸器官に充満する煮干しの香り。想像していた魚介ならではの生臭さやえぐみは一切なく、どこまでもシンプルに、煮干しの旨みだけを凝縮した純度の高い味わい。
それほど魚介系ラーメンに興味のなかった私に新たな扉を開かせた鮮烈な一杯。作った人に会ってみたいと思いお店を訪ねた。
麺やいつきが開店したのは2012年、今から10年前のことだ。もともとトラックの運転手などをしていた辻貴樹さんが、周囲に自営業の人が多かったこともあり、自分もお店を持ってみたいと起業にチャレンジしたのは自然な流れだったのだろう。何をするかと考えた時に、ラーメンが好きだったためラーメン屋をやろうと思い立ったという。
3年ほど他店で修行を積んだあと独立。土地勘がある帯広の南エリアで、広めの駐車場がある現在の場所にお店をオープンさせた。
いつきの定番は鶏をメインにしたあっさり系のスープだ。開業当時、帯広の南では新興住宅地が広がり続けていた。そのためファミリー層をはじめ、どんな世代にも食べてもらいやすい一杯をコンセプトに作り上げた。
しお、しょうゆ、みそ、辛みそ、ねぎらーめんからスタートしたメニューは、今では辛しょうゆと期間限定の鶏塩が仲間入り。そして3年ほど前に新しく誕生したのが煮干しラーメンだ。
「近所にラーメン屋が新しくできるたびに焦って、何か新しい商品をつくらないとと思うんですよね」
煮干しラーメンのアイデアは、札幌や首都圏で話題のラーメンを食べ歩く中で「これはうまい」という一杯と出会ったことがきっかけだったという。付き合いのあった節を扱う問屋と相談を重ね、アドバイスを受け、試作に試作。そうして完成したのが今のスープだ。
「正直最初はあまり自信がなかったんです。周りにも煮干しだけのラーメンってなかったので」
辻さんの不安を払拭したのは常連さんをはじめ、プロの料理人からも評判がよかったことだ。「おいしいから自信持ってやったらいいよ」と和食の料理人からかけられた言葉で、辻さんは煮干しを店の味として推していこうと決めた。
塩煮干しに限らず、辻さんのラーメンづくりはどこまでも丁寧だ。いつも食べるお客さんのことが念頭にある。前向きな辻さんに今後の夢について訪ねてみた。
「開業当時から思っていることなんですが、ラーメンで使う食材の何から何まで自分たちの手で作れたらなと。農家も自分でできたらいいですね」
お店の開業を手伝ってくれた周囲の人たち。毎週通ってくれる常連たち。お店を支えてくれるスタッフたち。人と人とのつながりに感謝しているという辻さんのラーメンが繋ぐ輪は、ますます広がっていくだろう。
取材後に改めて塩煮干しを食べに店を訪れた。平日の昼間にもかかわらず入れ代わり立ち代わりお客がやってくる。カウンターに案内され座ると「塩煮干しでよかったですか?」とホールスタッフから一言。常連として認められたような気持ちになり、心を弾ませながら着丼を待っていると、カウンター席に新たな客が。
「何になさいますか?」
「塩煮干しで」
その会話が聞こえて来た時、私は嬉しくなった。いつきの味として塩煮干しが確実に息づいている。ただの一ファンの身でありながら内心小躍りをして、目の前に置かれた一杯をたいらげるべく箸をとった。
しゅん編集部O 推しの一杯「煮干しら~めん(塩)」(800円)
日高の昆布と煮干しでつくられる深みのあるスープ。煮干しは季節によって種類や産地はさまざまで、脂のノリや味で厳選した2~3種類をブレンドし使用。ストレートの細麺とスープが絡み合う。穂先メンマ、四角く駒のように切ったネギ、かいわれ大根は煮干し専用のトッピングだ。
- しゅん編集部OのProfile
しゅん編集部に所属し今年で8年目のアラサー女子。食べ歩きが趣味でグルメ全般が守備範囲という雑食派。最も好きなものは甘い物。
麺や いつき
電話番号 0155-47-2560
住所 帯広市西16条南36丁目
営業時間
11:00~15:00、17:00~21:00、火曜~15:00
※営業時間変更の場合あり
定休日 水曜、他不定休あり